経営法務ニュースVol.25(2023年07月号)
はじめに
鴻和法律事務所 弁護士・中小企業診断士 壹岐晋大のメールニュースです。
- 今回の記事
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- 経営法務TOPICS第2の日本マクドナルド事件-あなたの会社の変形労働時間制が無効に?-
中小企業において最も相談の多い分野は労働事件ですが、労働事件において、過去に起きた「日本マクドナルド事件」という有名な事件を耳にしたことはあるでしょうか。
ホットコーヒーをこぼして巨額の賠償となった・・という事件かな?と思われた方もいるかも知れませんが、日本マクドナルド事件とは、いわゆる「名ばかり管理職」についての問題です。
労働基準法では、管理職(管理監督者)は残業代の支払いが免除されています(深夜割増は支払義務があります)。
マクドナルドの店長は、管理職として残業代が支払われていなかったところ、店長から、「実態として管理職ではないから残業代を払え」と裁判となり、それが認められた事件です。
今回の第2の日本マクドナルド事件は、管理職の問題ではなく、変形労働時間制についての問題です。
労働時間が、
というのがざっくりとした変形労働時間制の説明です。
日本では4社に1社が採用しており(令和4年就労条件総合調査)、飲食店などシフト制として採用している企業も多いと思います。
第2の日本マクドナルド事件では、この変形労働時間制の有効性が問題となり、裁判所は「無効」と判決を出しました。
なぜ無効になってしまったのでしょうか?
この問題は、マクドナルドだけが杜撰な管理だったなどという問題ではなく、他の多くの企業も同様の状況であることが多く、大きな影響が予想されます。
まず、以下の2つの質問について考えてみて下さい。
- ①.変形労働時間制(シフト制)を採用している場合、そのシフトパターンは全て就業規則に定めているでしょうか。
- ②.①がある場合、実際の運用として、就業規則に定められたシフトパターン通りに運用できているでしょうか。
この2つの質問に、いずれも「はい」と言えなければ、その変形労働制は無効になるリスクがあります。
今回の日本マクドナルド事件では、就業規則で、原則として、4種類のシフトパターンを定めていましたが、実際には各店舗では4種類のパターンでは対応できないため、例外的なシフトパターンでの運用が許容されていました。
変形労働制(1か月単位)を採用する場合には、就業規則その他これに準ずるもので各日・各週の所定労働時間を具体的に定める必要があります(労働基準法第32条の2)。
この点についてマクドナルドの労働者は、就業規則に全てのシフトパターンが定められていないから変形労働時間制は無効であると主張し、これに対してマクドナルドは、864店舗の全従業員の勤務シフトを就業規則に定めるのは現実的に不可能であるなどと主張しました。
裁判所は、大企業であっても、基本的にシフトパターンを全て就業規則に定めなければ、変形労働時間制の要件を満たさないとして、労働者の主張を認めました。
この点は、大企業も含め実態としては厳格に運用できていない企業が多く、裁判になれば無効となり、原則通りの残業代を支払わなければならないことが多いものの、紛争化していないため表面化していないというのが現状だと思います。
皆様の企業でシフト制などの変形労働時間制を採用している場合、就業規則にシフトパターンを定め、そのパターン通りに運用できているか、リスクとして把握し、見直しの検討をお勧めします。
なお、この判決は令和4年10月に名古屋地裁で出た判決で、控訴されましたが、先月出た控訴審(名古屋高裁)判決においても、変形労働時間制は無効であると判断されています。