経営法務ニュースVol.26(2023年08月号)

はじめに

鴻鴻和法律事務所 弁護士・中小企業診断士 壹岐晋大のメールニュースです。

ホテルニューオータニにあるケーキ屋さんに、「新エクストラスーパーメロンショート」という必殺技みたいな名前のケーキがあるのをご存知でしょうか。

先月誕生日を迎えた際に、いただいたのですが、なんとこのメロンショート、税込4,320円します。ホールではありません。ショートケーキ1ピースで、です。

私がこれまで食べたケーキの中で最高額を更新しました。

ケーキ

4320円に相当する味なのか興味のある方は是非食べてみて下さい。

今回の記事
  • 経営法務TOPICS前職からの損害賠償請求??営業マンの採用で気をつけること

前職からの損害賠償請求??営業マンの採用で気をつけること

これを読まれている顧問先の中で、「あ!うちのことだ!」と思われる方もいるかもしれませんが、営業マンの転職における顧客情報の持ち出しに関する相談が、ここ2か月で4件ありました。

競業他社のスター営業マンをヘッドハンティングしたり、求人に応募があり好条件で採用したというケースもあると思います。

しかし、採用後にトラブルになるケースは多くありますので、採用時には注意が必要です。

主にそのトラブルは採用後、会社と従業員に内容証明郵便が届いてから発覚します。

送り主は、その従業員の前職の会社の弁護士からです・・

ストーリーに沿って検討していきましょう。

ストーリー※フィクションです

創業20年の福岡市内のとあるサービス業

長年会社の営業を引っ張ってきた営業部長が昨年末に病気で退職してしまってから、新規顧客が増えず売上が伸び悩んでいた。そのため、営業力の向上が会社の喫緊の課題であった。

社長が頭を悩ませている中、採用担当の従業員から、県内にある競業他社のトップ営業マンが転職したいと求人に応募しているという報告を受ける。

早速その営業マンと面接すると、前職の競業他社では売上を上げてもなかなか給与は上がらず、上司からのパワハラも酷いという。そのまま懇親会をして、意気投合、営業先などを聞いてみると、こちらとは全く取引のない会社が多くあった。

是非にと、営業部長候補として高待遇で内定を出した。前職は今月中に退職するとのことだったので、来月から入社してもらうことになった。

これでようやく、我が社の売上の向上が見込めるぞ、、と期待に応えるように、その営業マンは、入社2ヶ月目から営業部トップの成績を叩き出した。

このまま営業成績を上げ続けて、他の営業マンにも良い影響を与えていってほしいと思っていたそんな矢先・・

会社に一通の内容証明郵便が届く。送り主には〇〇法律事務所と記載が・・

見ると、その営業マンの前職の会社からのようだ。

恐る恐る内容を見ると、その前職の営業マンは退職時に、誓約書を書かされているようで、こちらでの営業行為が誓約書違反であるとして、会社に損害賠償を請求するとの記載がある。

慌ててその営業マンを呼ぶと、「実は・・」と自分にも同じ法律事務所から内容証明郵便が届いていたことを明かした・・

今後、どうすればよいのだろうか・・

また、どのように対応していればよかったのだろうか・・

誓約書違反とは??

一般的に営業マンには入社時や、退職時に誓約書を書かされることが多いです。

その誓約書には、主に、

  • 秘密保持義務
  • 競業避止義務

などが定められています。

そして、秘密保持義務には、従業員が勤務中に知った会社の秘密について退職後に利用してはならないという内容のものが定められ、会社の秘密の中には、通常、会社の顧客情報などが含まれているのが一般的です。

競業避止義務には、退職後●年間は、同業他社に転職しないとか、従業員の引き抜き行為をしないなどといった内容が記載されていることが一般的です。

この誓約書については、まず効力(そもそも有効か無効か)という問題があります。

一般的に競業避止義務においては、その禁止する範囲(エリア)、期間、代償措置の有無などに応じて効力が判断され、無効となるケースも多くあります。

これは、従業員に職業選択の自由があるため、会社が強くそれを禁止することが制限されるからです。

しかし、秘密保持に関しては、会社の財産について従業員が私的に利用することを禁止するものであるため、有効となりやすいといえます。

そして、退職した従業員が、顧客情報を持ち出し、その顧客に営業活動を行うなどした場合には、この誓約書に違反することになり、損害賠償責任を負うということになります。

さらに、会社も誓約書違反であることを認識しながら、営業活動をさせていたとなると、会社も損害賠償責任を従業員とともに負担するリスクがあります。

では、どうすればよかったのでしょうか。

採用時の対応として

当たり前ですが、営業マンが転職してくる際に、前職の営業先にアプローチをかけようとしている場合には要注意です。

そのような場合は特にですが、内定を出す前に、前職の競業避止義務について確認しておく必要があるでしょう。

誓約書などを作成していないか、就業規則などを確認して競業避止などが定められているか否かなどを確認することになります。

それを見た上で、前職の会社とその営業マン及び会社が責任を負うリスクがどの程度あるのかなどを検討した上で、内定を判断するという流れが良いでしょう。

なお、上記事例が基本的な紛争の形ですが、 会社の顧客情報などの管理が厳密になされている場合には、持ち出しが不正競争防止法違反などの犯罪行為になるケースもあります。

また退職前の顧客に対する営業行為は背任罪などの犯罪行為になるケースもありますので、誓約書が無い=問題無いとなるわけではないことにはご注意下さい。

また、事例は基本的に、会社のリソースを用いて営業活動を実施していたようなケースを前提にしており、個人的なつながりからの顧客を保有している営業マンなどでは、競業避止義務が認められづらい場合があります。

今回はいわば採用後にトラブルが発生したケースですが、顧客情報というのは会社にとって重要な資産ですので、それを守るためにどのような対応が望ましいのかなどもご相談下さい。