経営法務ニュースVol.24(2023年06月号)

はじめに

鴻和法律事務所 弁護士・中小企業診断士 壹岐晋大のメールニュースです。

弁護士の業務として不祥事対応のご依頼をいただくこともあり、とあるご依頼が、不祥事発生から数年間かかり、ようやく終了する見込みとなりました。

守秘義務の関係で詳細は伝えられませんが、全国的にも報道された事件で、説明会対応や、SNSを中心とした多くの誹謗中傷対応(削除、発信者情報開示)、最終的な賠償訴訟対応などを行いました。

不祥事の問題は、再発防止策を実行していくことは当然の前提ですが、誹謗中傷などについてはいつまでも続くものではありません。

不祥事を起こした企業だけではなく、紛争中、特に裁判中であるという状態は、相手が悪いことはわかっていても、経営者にとって精神的な負担を感じる方も多いという印象です。

これは裁判や紛争ばかりしている弁護士は感覚が麻痺してしまいがちです・・

このような精神的な負担はいつか必ず終わると思います。

弁護士としては、依頼者にこのような負担があることを理解した上で、早期かつ適正に解決していく姿勢が大事なのかなと不祥事対応の事件を通して感じました。

今回の記事
  • 経営法務TOPICS債権回収の基本と対策-誰に対して請求ができるのか-

債権回収の基本と対策

顧問先様から定期的に債権回収についてご依頼いただきます。

当然すべて回収ができるわけではなく、回収に至らないケースもあります。

なんとか、未回収を防ぎたい、貸し倒れを回避したいという目的のためにどのような対策が考えられるでしょうか。

債権回収は、誰に対して請求ができるのでしょうか。

「当然債務者でしょう?」

との回答が予想されますし、正解です。

しかし、例えば、

  • 法人と契約をした場合に代表者に請求できる?
  • 個人に貸付けた場合にその配偶者に請求できる?
  • 従業員に対する損害賠償請求権はその雇用主(会社)に請求できる?

などなど、即答できないケースもあるのではないでしょうか。

債権(請求権)の種類はその発生原因として

  • ①契約関係から発生する請求権
  • ②不法行為に基づく請求権

の2種類があります。

①契約関係から発生する請求権というのは、契約書の有無を問わず、当事者間の合意によって発生する請求権という意味です。

②不法行為に基づく請求権とは契約をしたか否かに関わらず、加害者の不法行為により発生する請求権で、例えば交通事故などによって発生する相手への損害賠償請求権などが典型的です。

①契約関係から発生する請求権については、契約の当事者同士でしか発生しません。

例えば、相手が中小企業で従業員も少なく実質個人事業主であったとしても、直接代表者とやり取りをしていたとしても、株式会社など法人化をしていれば、基本的にはその法人に対してしか請求できず、代表者などの個人に対しては請求ができません。

契約書にサインされた署名部分が「株式会社〇〇代表取締役●●」とあれば、それは株式会社〇〇と契約したということになり、代表取締役●●へは請求ができないのが基本です(代表取締役●●は株式会社〇〇の代理人という位置づけにすぎません)。

これに対し、②不法行為に基づく損害賠償請求権は、相手本人だけではなく、その雇用主(民法715条)など請求の対象者を増やせることも多いです。

会社の従業員が運転する自動車で相手に怪我をさせた場合、被害者は、従業員、会社、車両の所有者などへの請求が考えられます。

ただ、債権管理として一般的に問題となるのは①契約関係から発生する請求権ですので、そちらの対策を前提に検討します。

債権管理の基本は、相手の資力の管理でもありますので、相手の資力以上に債権が増えないようにすることが重要です。

相手の資力の確認として、決算書等を確認するのもそのような対応の一つですが、現実的に取引段階において決算書類等を開示することは例外的なので、その点の確認は当初は支払いサイトを短くしたり、取引停止期限を早期としたりといった対応が取られていると思います。

また、請求の対象となる資力を増やすという方法も考えられます。

要は担保を増やすという意味です。

典型的なのは連帯保証をつけることです(人的担保)。これによって請求の対象者(債務者)を増やすことができます。

会社との取引の場合は、代表者を連帯保証にすることが多いです。

ただ、仮に相手が破産手続きに至った場合には、中小企業では会社と代表者は同時に破産するのが基本なので、どちらも回収できないという可能性もあるので、そのような段階になった場合には、代表者ではなく、他の企業や関係者などを連帯保証にするケースもあります。

なお、連帯保証については、

第●条(連帯保証)
丙(連帯保証人)は、乙が本契約によって負担する一切の債務について、乙と連帯して保証債務を負う。

などを条項として追加し、丙(連帯保証人)にも署名押印してもらう方法が一般的です。

保証は書面で作成しなければ効力がありません。

ちなみに、根保証(主債務者の請求額が不確定なもの(取引基本契約などで請求権が継続的に発生するものなど))で保証人が個人の場合は極度額(上限)の設定がなければ無効となりますので、そのような場合には、

2.前項による連帯保証人の保証極度額は〇〇万円とする。

といった条項を追加する必要があります。

その他、不動産や動産関係の資産について抵当権や譲渡担保権などを設定するなど、物的担保を設定するかたちで、請求の対象となる資産を明確にする(第三者の資産の場合は対象の資産を増やす)という方法もあります。

請求の相手方が誰かという問題は、強制執行の対象が誰の資産かという問題に繋がります。

つまり、最終的に差押えなどをする場合には、請求の相手方の資産にしか差し押さえができないのです。

その意味で、連帯保証人などの請求の相手方を増やすということが、後の強制執行のために大きく有利となることも多いです。

基本的な内容ではありますが、まずこれらの点を押さえて、債権管理の第一歩として考えていただければと思います。