経営法務ニュースVol.21(2023年03月号)

はじめに

鴻和法律事務所 弁護士・中小企業診断士 壹岐晋大のメールニュースです。

私は、弁護士業については個人事業主として毎年確定申告をしています(現在、まさに税理士の先生に申告手続をお願いしているところです)。

昨年2022年の収支を確認していたところ、新聞図書費(書籍等文献費)は70万円弱あることに気づきました。

1か月に約6万円程度書籍を購入している計算です。

書籍の購入は弁護士を始めてから自分への投資として意識的に行ってきました。

そもそも法律書籍は高い・・ということもありますが、企業に関する様々なご相談をいただく中で、適切な回答をするために日々INPUTをしていく必要があります。

業務が忙しくなるとその時間を削ってしまいがちですが、法律は変わりますし、新たな裁判例も出るしで、追いかけるのは大変です・・・

そこで書籍が増えすぎたので、バーコードリーダーを購入して書籍の管理をはじめました。

少しは楽に、かつ楽しく管理ができそうです。

今回の記事
  • 経営法務TOPICS長期に渡る悪質なパワハラ事件・・でも解雇は無効??長門市消防職員事件

長期に渡る悪質なパワハラ事件・・でも解雇は無効??長門市消防職員事件

先日、とある企業の社長より、「管理職による継続したパワハラで部下の従業員達が疲弊している・・なんとかこの管理職を辞めさせたいが、どうしたらよいか・・」と相談がありました。

いわゆる問題社員対応に関しての相談ですが、最近このような相談も増えています。

また、パワハラに対する意識は労使ともにこの10年でも大きく変わったと思います。

パワハラをすることで、組織の生産性が低下したり、部下がメンタルヘルス不調になり休職したり、結果重い処分を受ける可能性があるということは、今や共通認識になっています。

とある社長からの相談は、無事適切に対処することで管理職は退職になりました。

しかし、方法、順序を間違えてしまったり、落とし所が見つからずに、労働審判や裁判になってしまうケースも多くあります。

今回は、長期間に渡る悪質なパワハラをしていた従業員を解雇したものの、一審、二審と最高裁で結論が全く逆になった事案を紹介します。

長門市消防職員事件

山口県長門市の消防局の消防職員であったAさんが、長門市消防庁から分限免職処分(企業でいう普通解雇)を受けたことに対し、この処分(以下「解雇」と表現します。)は無効であると争った事件です。

処分の理由は、Aさんによる約9年間にわたる部下の立場にあった約30人への約80件のパワハラ行為でした。

パワハラの主な内容は、

  • 訓練中に蹴ったり、叩いたりする
  • 顔面を手拳で10回程度殴打する
  • 「殺すぞ」「お前が辞めたほうが市民のためや」「クズが遺伝子を残すな」との暴言を吐く
  • トレーニング中に陰部を見せるよう申し向ける
  • 携帯電話を勝手に見て、「お前の弱みを握った」などと発言する
  • 土下座を強要したり、上司に報告する者に「人生を潰してやる」「同じ班になったら覚えちょけよ」などと発言する

などです。

ちなみに、Aさんは、上記パワハラ行為の一部について、暴行罪により罰金20万円の略式命令を受けています。

ここまで読まれて、どうでしょうか。

「こんなに長期間悪質なパワハラをし続けて、かつ刑事罰も受けているような従業員、解雇になって当然だ」

というのが通常の感覚ではないでしょうか。

私も同様の相談を受けた場合には、基本的に懲戒解雇を前提に話をすると思います。

しかし、今回の事件で一審の山口地方裁判所と、二審の広島高等裁判所は、Aさんへの解雇が無効であるとして、Aさんの解雇無効の主張を認め、雇い主である長門市に対して給与の支払いを命じました。

一審、二審は、Aさんのパワハラが相当悪質であったことは認めた上で、

消防組織においては、公私にわたり職員間に濃密な人間関係が形成され、ある意味開放的な雰囲気(酒席で裸になったり、裸の写真を取り合ったり、トレーニング中に筋肉を叩きあったりするなど)が醸成されていたほか、職務柄、上司が部下に厳しく接する傾向にあるなど、特殊な職場関係である

とし、

  • Aさんに対して、指導などによる反省の機会を設けさせていないことや、他の職員にも同種の問題行動があったこと
  • 消防組織、とりわけ上層部の中では、Aさんの行為がパワハラに当たるという認識が希薄だった

として、Aさん個人だけの問題ではないことや、内部でのパワハラ防止研修なども実施されていないことなどから、結論として「解雇という判断は重すぎる」としました。

確かに自衛隊、救急病院など特殊な環境下におけるハラスメントは許容される傾向にあります。

生死を争う場面では強い口調になったりすることも十分に想定されるためです。

そして、会社としてのパワハラに対する認識が影響している点も注目です。

会社がパワハラについて大きな問題だと認識していなかったり、研修などを開いていない場合には、これらが紛争時に不利な事情として取り上げられてしまいます。

それらを考慮しても、無効とはならないのではないか・・と思っていたところ、令和4年9月13日の最高裁判決で、一審、二審の判決は取り消され、結果的に解雇は有効であると判断されました。

しかし、このような事例でも、やってしまった行為の重さ(今回でいうパワハラ行為の内容、頻度)だけを見てしまいがちですが、解雇が有効か無効かについては手続面などの会社の対応(研修や、本人に対する指導、教育の機会をもったか)も重要な要素になります。

パワハラ対策が不十分であると思われる会社はぜひご相談下さい。