経営法務ニュースVol.20(2023年02月号)

はじめに

鴻和法律事務所 弁護士・中小企業診断士 壹岐晋大のメールニュースです。

新型コロナウイルス感染が流行し始めてもう3年も経ちました。

ソーシャル・ディスタンスなど人との関わり合い方が大きく変化する中で、様々な分野でデジタル化なども推進されました。

法律の分野でも裁判期日をWEB会議で実施したり、書面のWEB上での提出ができるようになります(これまではFAXを使っていました・・)。

また、ようやく政府は新型コロナウイルスの感染症法上の扱いを「5類」に移行する方針を示すなど、行動制限などのない日常を取り戻す動きも加速しています。

今回は、これらに関連した会社の対応についてです。

今回の記事
  • 経営法務TOPICSコロナ「5類」移行??会社規程の見直しを
  • 経営法務TOPICS給与のデジタル支払い解禁!従業員から「給与をPayPayで」対応必要?

コロナ「5類」移行??会社規程の見直しを

政府は、ゴールデンウィーク明けの5月8日から、新型コロナウイルスの感染症法上の位置付けを現状の「2類相当」から、季節性インフルエンザと同等の「5類」へ引き下げることを決定したとの報道がありました。

新型コロナウイルス感染拡大が始まり、働き方の変化にあわせ就業規則などの規程類を改定した企業も多いのではないでしょうか。

新型コロナウイルスが「5類」へ引き下げられ、季節性インフルエンザと同じ扱いになることからすれば、もともと季節性インフルエンザ感染の従業員に関し、特段の社内ルールを定めていない企業がほとんどだと思いますので、従前の規程に戻すという判断もあると思います。

また、新型コロナウイルス感染拡大に伴い、テレワークを導入した企業などは、テレワーク規程は残した上で、ルールを一部修正するという対応も考えられます。

厳しい感染対策ルールを採用していた企業からは、そのルールの必要性、合理性について疑義が生じてくる可能性もあります。

見直すべきポイント

休業ルールの見直し
感染者については休業時に休業手当を支払わないなどの扱いをしていたこともあると思いますが、感染者で勤務できない状況であれば当然休んだ上で、休業手当を支払わないことにはなりますが、出勤できない期間などは原則無いため、待機期間などは見直す必要があります。
服務規程の見直し
マスク着用などがルール化されているケースで、屋内でのマスク着用も原則不要になるため、見直す必要があります。
テレワーク規程の見直し
濃厚接触者で無症状の場合などに認めていたテレワークルールなども、濃厚接触者の待機期間などがなくなる関係で見直す必要があります。

なお、社内規定とは異なりますが、不可抗力条項などで、取引先の新型コロナウイルス感染拡大などによる責任追及ができない条項を定期的に見ますが、今後の契約書作成などにおいては、その点も留意が必要でしょう。

ただ、条項に単に「感染症などによる不可抗力」などと記載されていたとしても、取引先(担当者)が季節性インフルエンザに感染したことなどで責任追及できなくなるという解釈は不合理なので、責任追及できなくなるというケースはかなり限定的だと思います。

給与のデジタル支払い解禁!従業員から「給与をPayPayで」対応必要?

今年の4月から改正労働基準法が施行され、賃金のデジタル払いが解禁されます。

そのニュースをみた従業員から「給与をPayPayで下さい」との申し出があった場合、会社は対応しなければいけないのでしょうか。

結論としては、対応する必要はありません

今回の改正は従業員がデジタルマネーでの給与の支払いを請求できるようになったわけではなく、会社が従業員の同意を得てそのような方法をとることもできるという選択肢を与えられたにすぎないためです。

つまりは、会社が一方的にデジタルマネーでの給与支払いをすることができるわけではありません。

ちなみに、もともと労働基準法上、賃金については現金払いが原則です。

労働基準法第24条
賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。ただし、・・・厚生労働省令で定める賃金について確実な支払の方法で厚生労働省令で定めるものによる場合においては、通貨以外のもので支払・・うことができる。

賃金の口座振込は例外として、ただし書きの厚生労働省令(労働基準法施行令)で定められています(実際はこちらが一般的)。

この厚生労働省令の中にデジタル払いが追加されることになりました(同令第7条の2、3号)。

もっとも、デジタル払いは、4月1日〜希望者に対してすぐできるようになるわけではなく、そもそも「PayPay」など「●●pay」の資金移動業者が、厚生労働大臣に指定申請をして、審査を踏まえ数か月後に指定され、定業者の範囲を事業者側で選択してデジタル払いを検討することになります。

資金移動業者の審査の要件

  1. 破産等の場合の保証の仕組み
  2. 残高上限額を100万円以下に設定する措置が講じられているか
  3. 残高変動から10年残高が有効
  4. 1円単位での資金移動が可能

などがあります。

給与のデジタル払いは振込手数料の問題などでメリットも指摘されますが、現時点で厚労省も周知用資料が未作成だったりと、実際に導入するには時間を要しそうです。(参考:厚生労働省 資金移動業者の口座への賃金支払(賃金のデジタル払い)について)