経営法務ニュースVol.59|2026.05
仕事を選ばないハローキティ
誤解を恐れずに言うと、私は仕事を選ぶ弁護士です。
相続事件、離婚事件、刑事事件、従業員側の労働事件などは基本的には対応しません。
儲かる儲からないといった話ではなく、私の対応能力には限界があるため、顧問先の相談対応や、会社側の案件に注力するためです。
私の場合は、様々な案件を対応すると、広く浅くの対応になってしまいがちなのです。
さて、突然ですが、最近よくサンリオのキャラクターを目にする気がしませんか?
至るところで、様々な商品のサンリオコラボを目にしており、「また、おまえらか」といったことが頻繁にあります。
私がサンリオを意識しすぎているだけでしょうか。
ちなみに、サンリオの創業者である辻信太郎氏は、サンリオの株主総会で、「大好きなのに売れずになくなってしまいそうなものがあったら、サンリオとコラボするようにいってほしい。そうすればコラボして売れるようにする。」という発言があったという話があることを知りました。
だから、キティは仕事を選ばないのです。
イキとは違います。
それ以来、私もキティのように今後は仕事を選ばずに何でも引き受けるように・・・
とはならず、愛されるキャラクターではないことを自覚して、また今日も離婚事件の相談を断り、他の先生に紹介しています。
この子もサンリオのキャラクター
(マクドナルドハッピーセットのおまけ)
今回の記事
- 経営法務TOPICS
- カスハラ防止指針の実務上のポイント-中小企業が押さえておくべき新ルール-
- 令和8年10月から事業主のカスハラ対策が義務化
- カスハラ対策のための重要資料として指針が公表
はじめに
令和8年4月、厚生労働省はカスタマーハラスメント(以下「カスハラ」)防止に関する指針を公表しました。
今年の10月1日には、改正労働施策総合推進法が施行され、すべての事業主にカスハラ対策を講じる義務が課されます。
中小企業も例外ではなく、規模や業種を問わず対応が求められる点に注意が必要です。
本コラムでは、指針の要点と中小企業がまず取り組むべき実務上のポイントを解説します。
カスハラの三つの要素
指針ではカスハラを、
- 顧客や取引先など、自社の労働者と関わる「顧客等」による言動であること
- その言動が社会通念上許容される範囲を超えていること
- 結果として労働者の就業環境を害する程度のものであること
という三要素を満たす行為と定義しています。
ここで重要なのは、対象となる相手が来店客に限られないという点です。
対面はもちろん、電話・メール・SNSを通じた言動も対象となり、取引先の担当者や匿名で問い合わせをしてきた人も含まれます。
BtoB事業を主とする中小企業にとっても無関係ではないということです。
正当なクレームとの線引き
実務で最も悩ましいのが「正当なクレーム」との区別です。
商品やサービスへの不満を伝える行為自体は、消費者の正当な権利行使にあたります。
しかし、要求の内容が過大であったり、要求の手段・態様が威圧的・拘束的・継続的である場合には、社会通念上の許容範囲を超えカスハラに該当し得ます。
カスハラ対応で最低限注意するポイントという記事でも、この区別については記載しているので、参考にして下さい。
例えば、土下座の強要、長時間にわたる拘束、人格を否定する発言、繰り返しの架電、SNSでの晒し行為などは、たとえクレームに一定の理由があったとしても、手段の不当性ゆえにカスハラと評価されます。
判断にあたっては、要求内容の妥当性と、要求手段の相当性の双方を検討する視点が欠かせません。
ちなみに、指針において典型例が紹介されているので、こちらも参考になります。
言動の内容が社会通念上許容される範囲を超えるもの
① そもそも要求に理由がない又は商品・サービス等と全く関係のない要求
- 性的な要求や、労働者のプライバシーに関わる要求をすること。
② 契約等により想定しているサービスを著しく超える要求
- 契約内容を著しく超えたサービスの提供を要求すること。
③ 対応が著しく困難な又は対応が不可能な要求
- 契約金額の著しい減額の要求をすること。
④ 不当な損害賠償要求
- 商品やサービス等の内容と無関係である不当な損害賠償要求をすること。
手段や態様が社会通念上許容される範囲を超えるもの
① 身体的な攻撃(暴行、傷害等)
- 殴る、蹴る、叩く等の暴行を行うこと。
- 物を投げつけること。
- わざとぶつかること。
- つばを吐きかけること。
② 精神的な攻撃(脅迫、中傷、名誉毀損、侮辱、暴言、土下座の強要等)
- 店舗の物を壊すことをほのめかす発言やSNS等のインターネット上へ悪評 を投稿することをほのめかす発言によって労働者を脅すこと。
- SNS等のインターネット上へ労働者のプライバシーに係る情報の投稿等をすること。 ・ 労働者の人格を否定するような言動を行うこと。相手の性的指向・ジェンダ ーアイデンティティに関する侮辱的な言動を行うことを含む。
- 土下座を強要すること。
- 盗撮や無断での撮影をすること。
- 労働者の性的指向
- ジェンダーアイデンティティ等の機微な個人情報について、当該労働者の了解を得ずに他の者に暴露すること又は当該労働者が開示することを強要する若しくは禁止すること。
③ 威圧的な言動
- 大きな声をあげて労働者や周囲を威圧すること。
- 反社会的な言動を行うこと。
④ 継続的、執拗な言動
- 同様の質問を執拗に繰り返すこと。
- 当初の話からのすり替え、揚げ足取り、執拗な責め立てをすること。
- 同様の電子メール等を執拗に繰り返し送りつけること。
⑤ 拘束的な言動(不退去、居座り、監禁)
- 長時間に渡る居座りや電話で労働者を拘束すること。
会社に求められる四つの措置
指針では、会社(事業主)が雇用管理上講ずべき措置として、大きく四点を求めています。
- 方針の明確化と周知(カスハラを許さない方針、行為者への厳正対処方針を明文化し従業員に周知すること)、
- 相談体制の整備(窓口の設置と担当者の対応力確保)、
- 発生後の迅速かつ適切な対応(事実確認、被害者へのケア、行為者への対応、再発防止策の実施)、
- プライバシー保護と、相談を理由とする不利益取扱いの禁止を周知することです。
これらは、すでに義務化されているパワハラ・セクハラ対策と共通する枠組みです。
既存の就業規則やハラスメント防止規程に「顧客等からの言動」を追加する形で整備することも、実務上は有効な選択肢となります。
なお、相談を理由とする不利益取扱いの禁止は、相談をためらわない職場環境づくりの前提として極めて重要です。
中小企業の実務ポイント
中小企業からは「専門部署も予算もない」との声がよく聞かれますが、指針は規模に応じた合理的な対応を認めています。
例えば、相談窓口は社長や総務担当者が兼務する形でも差し支えなく、就業規則の全面改定も必須ではありません。
まずはカスハラ対応の基本方針を一枚にまとめて社内に掲示し、朝礼や全体ミーティングで周知することから始められます。
また、業界団体等が提供するマニュアルやひな形、研修の活用も有効です。
複数事業者で共通対応をとることで、悪質な顧客への抑止力にもつながります。
さらに、悪質事案に備え、録音・録画機器の設置や、警察・弁護士への相談ルートを事前に整えておくことが、現場の安心感につながります。
おわりに
カスハラ対応は単なるコンプライアンス問題ではありません。
従業員の心身を守り、離職を防ぎ、サービス品質を維持するための重要な経営課題です。
10月の施行を待たず、自社の現状把握と方針策定に着手することをお勧めします。
判断に迷う場面では、ご相談ください。



