経営法務ニュースVol.38|2024.08

「38」

今回のニュースレターは第38号ですが、先月私も38歳になりました。

しかし誕生日の数日前に新型コロナに感染してしまい、誕生日は38度を超える熱でダウンしていました。

祝われるはず?が、自宅で隔離されるという辛い誕生日になってしまいました。(スケジュールを変更していただいた方はご迷惑をおかけしました・・・)

弁護士壹岐晋大
事務員さんと修習生がお祝いしてくれました。

今回の記事

経営法務TOPICS
カスハラ対応の注意点-録音録画、社長を出せ!にどう対応する?-

カスハラ対応の注意点〜録音録画、社長を出せ!にどう対応する?〜

近年、職場における様々なハラスメントが社会的な問題となっていますが、特に今問題視されているのが、セクハラ、パワハラではなく「カスハラ」です。

カスハラ、つまりカスタマーハラスメントは、顧客による著しい迷惑行為のことですが、2024年7月19日には厚生労働省の有識者検討会が、企業に従業員保護を義務付けるべきだとする報告書の素案を示したとの報道があったように、今後、法整備が進められていくことになります。

また、東京都では全国に先駆けてカスハラ防止条例を9月議会に提出することも話題になっています。

これまでは、社内でのハラスメントの防止対策をされていたと思いますが、今後は顧客からのハラスメントに対して、従業員を守るための対応が会社に求められていくことになります。

昨年11月に「カスハラ対応で最低限注意するポイント」という記事を執筆しておりますので、基本的な対応としてはこちらをご覧ください。

その中でも、カスハラは、クレームのうち、

  • 不当な要求
  • 要求を伴わない単なる嫌がらせ

であり、

  • 不当か正当かの見極め
  • 謝罪の仕方

が対策のポイントであると説明しています。

カスハラとクレームの関係

今回は、少しピンポイントに、カスハラ対応についてのよくある相談事項である、

  • 録音についての対応
  • 社長を出せ!の対応

について解説しようと思います。

録音について

カスハラは、口頭での暴言や脅迫的な言動がなされることが主であるため、録音、録画等をしていないと証拠が残らないケースが多くあります。

しかし、「無断録音をした場合に、裁判において証拠としての価値がなくなるのではないか」「プライバシー権侵害などでこちらが責任を負うことになるのではないか」などという懸念があるため、不当なクレームを受けても、会社としては「録音をすることは問題ないのか」「録音することは伝える必要があるのか」と悩まれることと思います。

基本的に無断録音でも証拠になる

まず、民事の裁判においては無断録音でも基本的に証拠としての価値は否定されません。

否定されるのは、録音の手段方法が著しく反社会的と認められる場合に限るとされています(カスハラの場面ではほとんど問題になることはないと思います)。

そして、プライバシーの問題については、基本的に会社として顧客のクレームを正確に把握する必要があることからすれば、会社に聞かれないようにするためのプライバシー的な要素は乏しく、この点も問題にはなりづらいと思います。

そのため、録音をする際に相手に伝える必要は基本的にありません。この考え方は録画でも同様です。

なお、相手の暴言が酷い場合など、牽制のために録音していることを伝えることが有効なケースもあります。その場合に「録音するな!」などと言われても、内容を正確に把握する必要があるため録音させていただくと伝えて対応することになるでしょう。

相手が録画してきた場合はどうなる?

逆に、相手がスマホなどで録画などをしてきたときにはどのように対応すればよいでしょうか。

上記のように基本的に会社は無断録音、録画ができることからすれば、こちらもそれを許容しなければならないようにも思えます。

しかし、必要性、緊急性が無いにも関わらず、録画などをされることは、肖像権侵害、プライバシー権侵害があると主張することはできます。

クレーム対応をしている従業員を撮影する必要性は乏しいですから、従業員が不当クレーマーを録画するのとは事情が異なると指摘することになるでしょう。

また、会社は自らの会社内について「施設管理権」という権利を有しており、他の顧客に迷惑を及ぼすなど、会社の施設の目的に適合しない場合には、それを根拠に禁止を求めるなどの対応が考えられます。

社長を出せ!と言われたとき

よくある不当クレーマーの対応として、「責任者を出せ!」「社長を出せ!」と言われることがあります。

結論としては、責任者、社長などが出る必要はありませんし、出ないほうが良いです。

まず、顧客には対応する従業員を選ぶ権利はありません。

また、カスハラの対応としては顧客からの要望(最終的に何を望むのか)を確認することになりますが、責任者や特に社長などの決裁権者が対応すると、「上司に確認します」という説明が使えないためです。

さらに、決裁権者の対応は、会社の対応と同視されてしまい、謝罪などが非を認めたことの理由などにされてしまうことがあります。

そのため、基本的には決裁権者がクレーマーの対応はすべきではないでしょう。

ただ、どうしても一定の責任者が出ないと収拾がつかない場合もあるでしょう。対応する従業員からの不満につながってしまうケースもあります。

そのため、対応せざるを得ない場合でも、上記のような問題を踏まえて、責任を認めるような発言は控えることや、決裁権があっても社内で検討しないといけない等の回答をする等対応に工夫が必要になります。

不当クレーマーから従業員を守りましょう

カスハラが法整備されようがされまいが、不当クレーマーから従業員を守ることは重要なことです。

会社の規定、マニュアル作成対応や研修などご希望があればご相談ください。