経営法務ニュースVol.19(2023年01月号)

新年のご挨拶

はじめに

鴻和法律事務所 弁護士・中小企業診断士 壹岐晋大のメールニュースです。

あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。

経営法務TOPICS
忘れたころにやってくる・・働き方改革で猶予されていた規制が始まります!
対象|医療・運送・建築
2024年問題(残業時間の上限規制)への対応
対象|全業種
中小企業も4月から割増賃金率の増率/就業規則、改訂はお済みですか?

少し復習になりますが、2019年に施行された働き方改革関連法の主な柱は以下の2つです。

  • 労働時間規制の見直し
  • 雇用形態に関わらない公正な待遇の確保

労働時間規制の見直し

労働時間規制の見直しとしては、

  • 残業時間の上限規制
  • 年次有給休暇の取得の義務付け
  • 高度プロフェッショナル制度の導入

等の改正がありました。

雇用形態に関わらない公正な待遇の確保

雇用形態に関わらない公正な待遇の確保としては、いわゆる「同一労働同一賃金」の問題です。

その中で、労働時間規制の見直しの最重要な改正である残業時間の上限規制について、以下の業種については規制が猶予されていました。

その猶予の期限が2024年4月に到来します。

これがなぜ猶予されていたのかというと、医療機関(医師)、建設業、運送業(ドライバー)等は慢性的に長時間労働となりやすい業種であることから、その準備期間として5年間必要だという判断からでした。

2019年からの5年間で長時間労働の対策に努めていた事業者もいると思いますが、なかなか対応できていない事業者も多いのではないでしょうか。

まずは、残業時間の上限規制がどのような規制なのかという点を理解しましょう。

実は、働き方改革関連法が施行されるまで、法律上、残業時間の上限は規制されていませんでした(行政指導等(法律上の規制ではない)での上限はありました)。

そこで、法律によって残業時間の上限が明確に定められ、これに違反した場合には労働基準法違反となり、罰則(6か月以下の懲役または30万円以下の罰金(労働基準法141条))の対象となりました。

具体的には、残業時間について

原則
月45時間・年間360時間
例外
  1. 月100時間未満※休日労働含む
  2. 年720時間
  3. 複数月平均80時間※休日労働含む
※例外(月45時間を超えてよいのは)年間6か月まで

という規制になりました。

例外は、特別条項付36協定という条件がありますが、実質的にはこちらが上限になるでしょう。

では、建設業、運送業、医療機関(医師)について、2024年4月からこの規制が適用されるのかと言われると少し違います。

まず、建設業については、以下のような規制となります。

災害の復旧・復興の事業ではない限りは、他業種と同様の規制がかかるということになります。

そして、運送業(自動車運転の業務)については、以下のような規制となります。

②の上限は720時間ではなく、960時間になります。

年960時間ということは月平均80時間になります。

このことからもわかるように、①③の規制も適用されません。

ちなみに、医療機関(医師)については、基本的な一般の勤務医は自動車運転の業務と同様、年960時間とされ、その他地域医療確保のために長時間労働が必要となる医師や、特定の高度な技能の習得のために長時間労働が必要となる医師等は、それよりさらなる長時間(年1860時間)等の基準となる見込みです。

以上のことを踏まえると、医療機関(医師)、運送業(自動車運転の業務)については、残業時間を年間960時間を超えないように残業時間の計画をすることになると思います。

災害の復旧・復興の事業ではない建設業については、以下のようなチェックが必要になります。

①残業時間月100時間は絶対超えてはならない
1回でも超えてはならない。
②残業時間が月45時間を超えてよいのは年6回まで
例えば、5月の時点で既に、毎月(1〜5月)45時間を超える残業がある場合には、残りの期間(6〜12月)で残業45時間を超えてよいのは1月だけ。
③直近の2〜6月の平均で残業80時間を超えてはならない
例えば、2か月連続で残業80時間を超えてはならない。
④年間では720時間以上残業させてはならない
例えば、11月時点で残業時間が700時間となっていた場合、12月には20時間しか残業させてはならない。

つまり、毎月の残業時間を踏まえて、年間どの程度残業させられるかを計画しなければならないということになります。

「年間720時間(医師、運送業では年間960時間)なんて残業をさせていないよ」と思われる事業者でも繁忙期等だけ長時間残業になる場合もあり、2か月連続80時間を超えてしまっているというケースも出てくると思います。

2024年4月からの施行ですが、2024年になってからいきなり残業時間を減らそうとしても間に合わないケースも多いでしょう。

前もって計画することが重要です。

これも働き方改革の話です。

2019年に施行された働き方改革関連法で、残業時間が月60時間を超える場合、中小企業の割増賃金率が25%から50%に引き上げられました。

この改正は、2023年3月末まで猶予されていましたが、今年の4月より規制が始まります。

先程の残業時間規制は2024年からでしたが、こちらは今年ですのでご注意下さい。

就業規則において、割増賃金率の定めがある事業者も多いと思いますが、その場合就業規則の改訂が必要です(当然ですが、改訂をしなくても支払い義務は生じます。)。

厚労省でのモデル就業規則における記載例は、下記となっています。

(割増賃金)

第○条 時間外労働に対する割増賃金は、次の割増賃金率に基づき、次項の計算方法により支給する。

(1)1か月の時間外労働の時間数に応じた割増賃金率は、次のとおりとする。この場合の1か月は毎月1日を起算日とする。

① 時間外労働60時間以下・・・・25%

② 時間外労働60時間超・・・・・50%

(以下、略)

就業規則がどのように規定されているかによって、改訂内容が異なります。

具体的な改訂内容についてはご相談下さい。