経営法務ニュースVol.61|2026.07
気づけば5年
鴻和法律事務所に移ってから、7月1日でちょうど5年が経ちました。
前の事務所ではいわゆる"雇われ弁護士"として働いていましたが、今の事務所では、仕事は自分で取る・スタッフも自分で雇う・事務所には経費を入れる、という完全に"自分で回す"スタイルに変わりました。
正直、最初はかなりドキドキでしたが、皆さんに支えていただいたおかげで、なんとか5年の節目を迎えることができました。
本当にありがとうございます。
これからどんな働き方になっていくかは、まだ自分でもわかりませんが、変わらず皆さんのお役に立てる弁護士でいられるよう、これからも頑張ってまいります。
引き続き、どうぞよろしくお願いします。
今回の記事
- 経営法務TOPICS
- 自分で退職するから問題ない?退職届の問題点
- 退職届を出して退職する場合でも紛争化するケースがある
- 退職したいと言っても撤回できる。撤回できないようにするには?
- 違法な退職勧奨だ!と言われないようにする必要あり
はじめに
問題社員対応の相談は多いですが、一発解雇まではできない、、というケースが多くあります。
そのような場合には、退職勧奨などによる退職届での提出で解決するケースが多くあります。
「従業員が自分で辞めると言ったのだから、会社は何も問題ないはず」――そう思っている経営者は多いのではないでしょうか。
しかし、退職届をめぐるトラブルは、会社側にとって思わぬ法的リスクを生むことがあります。
退職届に関する3つの問題点を整理します。
退職届は撤回できる?
問題社員から退職届が提出されたからといって、すぐには安心できません。
退職届は、会社が承認・受理する前であれば、従業員側から撤回できるというのが原則です。
特に、感情的になった従業員が勢いで退職届を出したものの、翌日になって「やっぱり撤回したい」と申し出るケースは珍しくありません。
こうした事態を防ぐためには、退職届を受け取ったら速やかに「受理した」旨を書面やメールで従業員に伝えることが重要です。
会社が承認の意思表示を行った時点で、退職の合意が成立したと評価されやすくなり、一方的な撤回を認めない根拠となります。
口頭での受理通知だけでは後日争いになりやすいため、メールや書面での記録を必ず残しましょう。
無理やり書かされた!――実質解雇の主張
退職勧奨を行った結果、従業員が退職届を提出したケースでは、後になって「会社に強制されて書かされた」「実質的には解雇だ」と主張されるトラブルが起きがちです。
そんなこと言われるのか?とも思われるかもしれませんが、解雇と扱われ、それが無効となると半年から場合によっては数年分の給与などの支払いが発生するなどの可能性があることから、従業員がそのような主張をしてくることがよくあります。
退職勧奨それ自体は違法ではありませんが、以下のような行為は違法な強要と判断される可能性があります。
- 退職を拒否しているにもかかわらず、繰り返し・長時間にわたり面談を続ける
- 「退職しなければ解雇する」「降格させる」などの脅迫的な言動をとる
- 退職届の提出をその場で強く求め、検討する時間を与えない
退職勧奨を適法に行うためには、面談は1回あたり短時間・複数回にわたらないよう配慮し、あくまで会社の意向を伝えるにとどめることが基本です。
また、面談の日時・内容・出席者を記録として残し、従業員が「自らの意思で退職した」ことを客観的に示せるよう準備しておくことが不可欠です。
退職届には「一身上の都合により」という文言を従業員自身に記載してもらうことも、自発的退職の証拠として有効です。
即日退職の退職届と業務引継ぎ拒否リスク
近年、「退職代行サービス」の普及もあり、従業員が突然「本日付で退職します」という退職届を提出し、翌日から出社しないケースが増えています。
民法上、雇用期間に定めのない場合、従業員は2週間前に申し出れば退職できるとされています(民法627条)。
つまり、就業規則で「1か月前に届け出ること」と定めていても、法的には2週間経過すれば退職は有効となる場合があります。
問題となるのは、業務の引継ぎが一切行われないまま退職されるケースです。
顧客対応・進行中のプロジェクト・システム管理など、引継ぎなしでは業務が滞り、会社に具体的な損害が生じることもあります。
こうした事態に備えるためには、以下の対策などが考えられます。
- 就業規則に退職時の引継ぎ義務を明記し、入社時に誓約書で確認する
- 重要な業務は属人化を避け、複数名が対応できる体制を日頃から整える
- 引継ぎ拒否による実害が明確な場合は、損害賠償請求の検討も視野に入れる(ただし立証のハードルは高い)
- できる限り有給は消化させておく
退職届が出てからでは手遅れになることも多く、日頃からの業務管理と規程整備が会社を守る最大の対策です。
まとめ
退職届は「出されたら終わり」ではなく、受理のタイミング・退職勧奨の進め方・引継ぎ対応のいずれかでトラブルに発展する可能性があります。
「自己都合退職だから安心」と油断せず、退職にまつわるルールを整備し、問題が生じる前(円満退職ではない場合)に早めに弁護士に相談することをお勧めします。



