経営法務ニュースVol.48|2025.06

親知らず

これは要配慮個人情報なのですが、私には虫歯があります。

その虫歯を治療するには親知らずを抜かないといけないことになりました。

先日、大学病院を受診すると、1本だけ抜けばいいと思っていたのに、「どうせなんで上下左右も抜きましょう」とカジュアルに提案されたものの、弁護士の交渉力を見せつけて、なんとか左の上下だけまずは抜歯することになりました。

カジュアルに提案してきた割に、神経を傷つけて麻痺が残るかもしれないとか様々リスクの説明をされ、少々ビビってます。

抜歯手術は5月末に行いますが、みなさんがこのニュースレターを読んでいるころには、私の親知らずは抜かれていることと思われます(とりあえず左だけ)。

1週間くらいは、後遺症(空腹)により、ちょっと性能が落ちているかもしれませんが、あらかじめご了承ください。

今回の記事

経営法務TOPICS
改正下請法で拡大する保護・規制対象 - あなたの会社は該当する?

改正下請法で拡大する保護・規制範囲

内容まとめ
  • 法令の名称が変更 下請法→中小受託法へ
  • 適用基準に、従前の資本金基準に加え、従業員数基準が追加
  • 運送受託も適用対象に

特に注意すべき事業者
  • これまで適用対象外だったが、従業員数が300人を超える事業者
  • 運送事業者
  • コストが大幅に上昇しているにも関わらず、発注者と協議をしてもらえない事業者

はじめに

先月、従前の下請法から内容が大きく修正された改正下請法が成立しました

施行日は、来年1月1日になります。

まず、前提として現在の下請法の内容を確認します。

下請法によって規制されている取引の種類は4つであり、発注者側と下請側の資本金額によって、規制対象が決まります。

全ての下請取引に下請法が適用されるわけではありません

基本的に下請法には、発注者側(親事業者)に対して規制がありますが、資本金額基準によって適用対象とならないケースも多くありました。

例えば、製造を下請業者に委託する場合には、発注者側の資本金額が、3億円を超える場合には、下請業者が3億円以下の場合に下請法の適用となり、発注者側の資本金額が、1千万円〜3億円の場合には、下請け業者が1千万円以下の場合に下請法の適用となります。

そして、発注者側の資本金額が、1千万円以下の場合には、相手がどのような事業者であるか否かにかかわらず、下請法の適用はありませんでした


下請法の適用範囲

名称変更

今回成立した改正下請法についてですが、まず大きな点として名称が変更になりました。

まず、「下請」という用語は、発注者と受注者が対等な関係ではないというイメージがあることや、現状、使われなくなっている(「協力企業」といった表現を使うケースも多いと思います。)ことなどから、その用語自体が法令上使われなくなりました。

法令の名称も、「下請代金支払遅延等防止法」(いわゆる下請法)から「製造委託等にかかる中小受託事業者に対する代金の支払いの遅延等の防止に関する法律」と変更になりました。

おそらく略称は、「中小受託法」などになるのではないでしょうか。(一定期間は改正下請法、旧下請法などと呼ばれると思います。)

従業員基準

下請法は資本金額によって適用されるかどうかが定められていました。

ただ、資本金額は実態を伴わないケースも多くあったり、下請法の適用を避けるために資本金を調整する事例も指摘されていました。

そこで、今回は資本金ではなく、従業員の基準が追加されました

具体的には、製造委託等については300人役務提供委託等については100人という基準が定められました。

適用基準例(製造委託等)

適用基準例(製造委託等)

つまり、資本金基準では下請法適用対象ではなくても、発注者側が従業員数が300人超の場合で、相手が300人以下の場合には、下請法適用対象となります

協議を適切に行わない代金額の決定の禁止

自分が発注者として下請法(中小受託法)が適用されないとしても、相手である発注者から法律違反をされるケースもあるので、受注者側としても法令について一定程度理解すべきです。

例えば、下請法は、支払い遅延、買いたたき、減額等の多くの禁止行為が定められていますが、今回の法改正で新たな禁止行為が定められました

それが、「協議を適切に行わない代金額の決定の禁止」です。

これまで、代金を一方的に減額するような「買いたたき」は禁止されていましたが、昨今の物価高などによるコストの上昇から、対価を増額してもらう必要があるにも関わらず、コストアップに見合わない引き上げしかされない場合も、多く問題となっていました。

このように、協議を適切に行わずに代金額を決定することを禁止しました。

ただ、これもどこまで協議を行う必要があるのかや、そもそも代金額を増額しなければならないわけではないことなどから、現実的に直ちに対価が大幅にアップするわけではないと思いますが、規制対象行為とされていることは一つの交渉材料になり得ると思います。

運送委託の追加

下請法が適用対象としている取引の中に、荷主が運送事業者に運送を委託することは含まれていませんでした(現在の下請法でも、元請物流事業者が下請運送事業者に再委託する場合は規制対象となっていました。)。

適用対象外だったのは、独占禁止法で別に定められていたことが主な理由ですが、独占禁止法の基準は明確ではなかったため、今回下請法が適用対象となり、判断基準や禁止行為が明確化されました。

最後に

発注者と受注者の関係となる取引に関しては、相手が個人事業主である場合のフリーランス新法などとの関係も含めると非常に複雑な規制になっています

不明点があればいつでもご相談ください。