経営法務ニュースVol.37-2024.07

赤坂ランチ研修

前号でもお伝えしましたが、先月より司法修習生の指導担当をしています。

「司法修習生」とは、司法試験合格後の研修生であり、司法研修所(埼玉県和光市)、裁判所、検察庁、弁護士事務所で研修を受けますが、現在は私についてまわって、研修を受けてもらっています。※ご相談や打ち合わせに同席させていただいた方はご協力ありがとうございました。センシティブな相談も多くあるので、難しい場合は遠慮なくお断りいただいて結構です。

私の担当する司法修習生は関東出身で、福岡には縁が無いこともあり、研修期間中には福岡で美味しいものを食べてもらおうと、ランチは基本毎日別の店に連れて行っています。

若者に触れて色々な刺激を受けることもありますが、若者とは胃の力の違いを見せつけられる日々です。

司法修習生の指導担当が終わる頃には、赤坂のランチマップができそうです。

ポラポラ食堂
※赤坂にある南インド料理のポラポラ食堂。お勧めです。

今回の記事

経営法務TOPICS
債権回収の裏技?裁判を経ずに強制執行?意外と知らない「先取特権」の使い方

意外と知らない先取特権の使い方

債権回収等において、相手の資産に対して強制執行の手続きをするには、基本的に、裁判所に訴訟を提起して判決を獲得しなければいけません。

しかし、訴訟を提起して判決を獲得するまでには、相手がどの程度裁判で争うかなどにも左右されますが、どんなに早くても3か月、通常は半年から1年程度の期間を要します。

そこまで時間が経ってしまうと、訴訟当初よりも相手の資産が減ってしまい、回収可能性が大きく変わってしまう場面は多くあります。

そうなる前に、事前に公正証書を作成したり(公正証書があれば裁判を経ずに強制執行ができます。)、抵当権等の担保を取るべきなのですが、なかなか事前にそのような対応ができることは少ないです。

そのような場面において、判決を獲得せずとも、いきなり強制執行ができる「先取特権」というものが使えるケースがありますので、参考までにご紹介します。

先取特権とは

先取特権というのは、法律で一定の取引の場合のみに認められる担保権の一種です。

皆様がよくご存知の抵当権という担保権は当事者の合意で設定する必要がありますが、先取特権は、一定の取引において自動的に認められる担保権です。

どのようなケースで認められるのでしょうか。

まず先取特権には、

  • 一般先取特権
  • 特定先取特権

の2種類があります。

一般先取特権

一般先取特権は、特定の原因によって生じた債権に関して、債務者の全ての財産について先取特権を行使できます。

特定の原因とは以下です。

  • 共益の費用
  • 雇用関係
  • 葬式の費用
  • 日用品の供給

ここでは詳細は説明しませんが、企業が債権回収をする場面ではこの一般先取特権を使う場面は少ないです。

むしろ、雇用関係として賃金の未払いがある場合など、従業員から裁判を経ずに強制執行されてしまう(つまり、裁判手続などを経ずに、いきなり預金が差し押さえられる)といったことがあり得るので、要注意です。

特定先取特権

特定先取特権には、一般先取特権とは異なり、特定の資産に対してのみ先取特権を行使できます。

主に動産の先取特権と不動産の先取特権というものがあります。

動産の先取特権

動産の先取特権には、

  • 不動産の賃貸借
  • 旅館の宿泊
  • 旅客または荷物の運搬
  • 動産の保存
  • 動産の売買
  • 種苗または肥料の供給
  • 農業の労務
  • 工業の労務

などがあります。

いずれもピンとこないものも多いと思いますが、たとえば「動産の売買の先取特権」とは、例えば、機械を売却してその売買代金が支払われない場合に、この動産の先取特権を行使することで、相手が持っているその機械に対して強制執行をかけることができます。

また、その機械が転売されている場合には、転売代金債権自体を差し押さえることもできます(未回収である場合に限ります)。

不動産の先取特権

不動産の先取特権には、

  • 不動産の保存
  • 不動産の工事
  • 不動産の売買

があります。※ここまで紹介した先取特権は民法に定めれていますが、先取特権は民法以外にも、保険法(被害者による損害賠償請求(賠償責任保険金請求))、建物区分所有法(管理者等による管理費請求(区分所有者の不動産))などの法律にも定められています。

例えば、不動産の工事の先取特権とは、不動産所有者から工事を受注した場合に、その工事代金が支払われない場合にその不動産に先取特権を行使することで、不動産に対して強制執行をかけることができます。

なお、特定先取特権のメリットとしては、相手が破産手続申立をしても行使できるというところに強みがあります。

例えば、動産を売却した先が破産した場合においても、先ほど説明したように、動産を保有していたり、動産を転売した債権が未回収である場合など、動産売買先取特権を行使して、金銭を回収できるケースがあります。

債権回収においては、回収が難しいケースも多いですが、最初から諦めず、検討できることは全て検討するというスタンスが大事なので、もしお困りごとがあれば遠慮なくご相談ください。