経営法務ニュースVol.16(2022年10月号)

【はじめに】

鴻和法律事務所 弁護士・中小企業診断士 壹岐晋大のメールニュースです。

今回の記事
  • 経営法務TOPICSフリーランスとの契約は要注意?フリーランスとの業務委託の留意点
  • TOPICS「叱る」ことの依存?

経営法務TOPICSフリーランスとの契約は要注意?フリーランスとの業務委託の留意点

契約書の形式として最も多いのは「業務委託契約」かもしれません。

この便利な契約類型では、様々な「業務」が委託されますが、委託される相手には、フリーランスの方もいるのではないでしょうか。

フリーランス

フリーランスとの取引について、発注者側に対する規制が強化される流れになっています。

フリーランスの定義

「フリーランス」という表現は法律上の用語ではないので、ここではフリーランスガイドラインの定義と同様、「実店舗がなく、雇人もいない自営業主や一人社長であって、自身の経験や知識、スキルを活用して収入を得るもの」としましょう。※フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン

この定義でもわかりづらいですが、理解のために一旦「個人事業主」と捉えていただいても良いと思います。

フリーランスと下請法

現在、資本金1000万円を超える事業者が、フリーランス(資本金1000万円以下)と特定の取引をする場合には、下請法が適用されます。

つまり、資本金1000万円を超えない事業者(資本金1000万円ちょうども含みます。)は、下請法を気にする必要はありませんでした。

しかし、政府はフリーランスとの取引については、発注者の資本金額に関わらず下請法の適用対象とするとの調整に入りました。

下請法が適用になると、下請法は下請けを保護する法律なので、発注者側としては、問題となる行為類型を抑えておく必要があります。

  1. ①報酬の支払い遅延
  2. ②報酬の減額
  3. ③著しく低い報酬の一方的な決定
  4. ④やり直しの要請
  5. ⑤一方的な発注取り消し
  6. ⑥役務の成果物にかかる権利の一方的な取り扱い
  7. ⑦役務の成果物の受領拒否
  8. ⑧役務の成果物の返品
  9. ⑨不要な商品又は役務の購入・利用強制
  10. ⑩不当な経済上の利益の提供要請
  11. ⑪合理的に必要な範囲を超えた秘密保持義務等の一方的な設定
  12. ⑫その他取引条件の一方的な設定・変更・実施

ここですべて詳細に記載することはできませんが、個人との業務委託だからと何も対応をしないでよいわけではありません。

フリーランスとの取引は、会社との個別の関係があるケースも多いですが、今後の動向に注意が必要です。

インボイス制度

なお、上記とは別に、最近もインボイス制度の対応、転嫁円滑化施策パッケージの問題など、フリーランスとの関係での動きはあります。

特に、インボイス制度に関しては、2023年10月1日から実施され、免税事業者に対し、課税事業者になるよう要請することが考えられるが、それを超えて、課税事業者にならないと取引価格を引き下げる、取引を打ち切るなどといった対応は、独禁法(優越的地位の濫用)などの問題にもなり得るので注意が必要です。※課税事業者になるよう要請すること自体は、法令上問題はありません。

免税事業者及びその取引先のインボイス制度への対応に関するQ&Aを踏まえ、交渉などをする場合には、記録化など丁寧な対応が求められます。

なお、かくいう私も個人事業主です。(経営コンサルティング等を実施するための別法人はありますが、弁護士としての所属は鴻和法律事務所でこちらも法人ではない組合です。)。

私との取引も今後法規制の対象になるかもしれません(対象になった途端下請け保護などの主張はしないので、ご安心ください。)。

なお、2023年10月からのインボイス制度に関しては、当然対応予定です。

TOPICS「叱る」ことの依存?

村中直人著「〈叱る依存〉がとまらない」という本をご存知でしょうか。

私個人も、ハラスメント研修などで紹介したりするのですが、概要としては、「叱る」行為には依存性があるのでは??ということが書かれた本です。

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ハラスメント問題に悩む方にとっては、参考になる部分もあるので、興味のある方はお読みください。

内容をざっくり説明すると・・・

  • 「叱る」というのは、「自分の権力の及ぶ範囲の相手を変えたい」という思いを前提にした行為である。
  • なぜ相手を変えたい(問題があった場合に是正したい)するために、相手にネガティブな感情を起こさせる「叱る」という行為に成るのかについては、「つらい思いをしなければ人は変わらない」という誤解がある。
  • そして、「叱る」という処罰感情を充足させる行為には、依存性がある。

というものです。

管理者の立場で、部下が問題を起こした場合に、部下を指導する場面において、今後同様の問題を発生させないためには、当然叱りつけるという方法も短期的には有効な場面もあるでしょうが、継続的に信頼関係を作った上で、内発的に自ら成長させていくということがマネジメント力であるとすれば、一つ参考となる書籍です。

「叱る」という行為が、部下が問題行動をした場合に当然の行為であると認識されている方は多いですが、「叱る行為には依存症がある。むしろ自分のため叱っている。」という指摘は、響く可能性もあるかもしれません。