経営法務ニュースVol.36(2024年6月号)
虎に翼
現在放映中の朝ドラ「虎に翼」は、日本初の女性弁護士、裁判官であった三淵嘉子氏をモデルにしたストーリーです。
毎日観るのは難しいので、週末などにまとめて観ながらなんとか追っかけています。
このドラマのテーマでもある女性に対する権利の制限の他にも、
- 法廷で検察官が裁判官と同じ壇上に座っていること→現在は弁護士と同じく下に座っている
- 弁護士が国から処分される立場であること→現在は監督官庁はなく弁護士自治
- 弁護士が法服を着ていること→現在は法服は裁判官のみ
など、今とは制度も異なる違和感のある描写があり、勉強になります。
ちなみに、この舞台である昭和13年度の司法試験(高等試験司法科)の筆記試験の憲法の問題は、
一 天皇ノ國法上ノ地位ヲ明ラカニス
二 立法権ノ意義及範囲ヲ論ズ
でした。
問題文がこれだけです。何から書いていいのやら・・という感じです。
ちなみに、私は東日本大震災の2か月後に司法試験を受験したのですが、この年の司法試験の憲法の問題はこちらです。全然違います。
- 今回の記事
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- 経営法務TOPICS従業員の死亡退職金、同性パートナーに払う必要あり?
- 経営法務TOPICS退職代行(非弁護士)から連絡が来た場合の対応
- お知らせ司法修習生の指導担当をすることになりました(6月11日〜)
退職金規定などを設けている企業で、退職金受給権利者に、「配偶者(婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にあった者も含む。)」などと定めている会社も多いですが、皆様の会社はどうでしょうか。
従業員が亡くなられたときに、婚姻はしていないものの同性パートナーがいた場合に、この同性パートナーに対して死亡退職金を支払うべきでしょうか。
ここでの事実上婚姻関係とは、異性との関係に限るのでしょうか。
今年の3月に、犯罪被害者の遺族等に対して国が給付金を支給する法律に関して、犯罪行為によって死亡した者の同性パートナーが、同法の「配偶者(婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にあった者も含む。)」に該当するとして、給付金を請求した事件の最高裁判決がありました。
最高裁判決は、同性パートナーも同法の給付金の請求権者に該当すると判断しました(最高裁第三小法廷令和6年3月26日判決)。
会社の死亡退職金の問題と犯罪被害者の給付金の問題は別の問題ではありますが、遺族の生活補償という趣旨が類似するため死亡退職金の問題にも影響を与える可能性があります。
トランスジェンダーの国家公務員の女性トイレ使用制限が違法とされた事例や、性同一性障害特例法で生殖不能要件が憲法違反とされた事例など、近年LGBTQに関する問題について大きく時代の流れが変わっています。
国の対応などとは異なり、私企業である会社は一定程度自由な裁量が与えられています。
退職金規程の問題など、判断に悩まないよう明確化するなど見直しを検討されても良いかもしれません。
最近増えている退職代行業者を利用した退職の連絡・・
それくらい自分で連絡して、、という思いもありますが、実際に退職代行業者から連絡があった場合どのように対応すればよいでしょうか。
先日の講演で質問を受けた内容でもあり、簡単にまとめます。
「代理」行為を行う業者は、弁護士法違反
退職代行業者のように、本人ではない第三者が連絡をしてくる手段としては、法律上「代理人」となるケースと「使者」となるケースがあります。
基本的に、退職の意思表示を行うことを「代理人」として行うことは、法律事務の代理行為なので、弁護士にしかできませんので、代理行為を行う業者は、弁護士法違反となります。
そのため、退職代行業者は、本人の意思表示を伝達するためだけの立場である「使者」という扱いで対応しているというケースがほとんどです。
「使者」は、単に本人の意思を伝達するだけなので、代行業者が法律事務の代理行為ができない=交渉ができません。
つまり、残業代や有給についての交渉が基本的にできません。
そのような行為を代行業者が行ってきた場合には、弁護士法違反だと指摘することも考えられます。
本人に退職の意思を確認できるか?
代行業者による連絡があっても、本人の意思によるものかはわかりません。
会社から本人に直接退職の意思を確認することはできるのでしょうか。
全文自筆の退職届で、本人の印鑑登録証明書などが添付されているなどした場合には、本人の意思確認などは不要になると思いますが、そうでない場合に確認することは必要になるでしょう。
ちなみに、代行業者から「本人への連絡を禁止する」といった文言があっても、拘束力がないので従う必要はありません。
ただ、そのような場合に本人連絡をしても無視されたり、書類を送っても連絡がないといった場合があります。
そのような場合には、連絡なき欠勤として就業規則上の自動退職の適用などを検討することになるでしょう。
ちなみに、通常退職代行を利用した退職は、退職の連絡があった後は、残っている有給を全て消化するといった形で出社を拒否するケースが多いです。
引き継ぎがなされないなどにより会社の業務が滞ってしまうケースも有るので、この点は退職代行業者を通じてや本人に対して、退職日まで誠実に労務を提供する義務があることなどを説明し、応じてもらうよう交渉することになるでしょう。
ただ、現実的には対応されないケースも多く、損害賠償請求なども奏功しないケースが多いため、基本的には普段から有給は消化させておくことが重要になります。
なお、会社側の相談を受けていると、問題社員など、『従業員に退職してもらって逆に助かった』という場合もあるので、そのようなケースでは上記のように本人意思の確認などは厳密に対応する必要のない場面もあると思います。
※弁護士ではない退職代行業者を前提に解説しましたが、弁護士も退職代行を行っていることがあります。そのような場合には、基本的に弁護士とやり取りを行うことになります。
【お知らせ】司法修習生の指導担当をすることになりました(6月11日〜)
弁護士は、司法試験を合格後約1年間、司法修習という研修期間があります。
その中で裁判所、検察庁、弁護士事務所などに所属して研修を行うのですが、6月11日から8月1日まで、私が指導担当弁護士として司法修習生の指導を行うことになりました。
司法修習生は弁護士と同様、守秘義務を負っており、相談等に同席する場合には、事前に同席の可否について確認をさせていただきますが、将来の法曹養成のために、お願いさせていただいた際にはご協力いただけると幸いです。